コロナウィルス危機、家にばかりいて暇を持て余していませんか?そんなあなたに中絶をテーマにした本の紹介です。
社会はロックダウンでも、望まぬ妊娠と中絶がなくなるわけではありません。むしろ、望まぬ妊娠の数は増えているとさえ言われています。また、中絶をしたくても、外出規制で自由にクリニックに行くことができないのが現状です。性と生殖の権利を推進する私たちに休む間はありません!ソーシャルディスタンスが求められ、外で活発になれないなら家で本を読めばいいじゃないか、ということでWoWは本を紹介するコーナー、Abortion Book Club(中絶図書クラブ)を作りました。あなたももっと中絶のことを知ってみませんか?
これらの本は、WoWラテンアメリカ担当の一スタッフのおすすめですが、残念ながらスタッフの名前は言えません。ラテンアメリカで自分の名前を出して中絶を積極的に語ることは危険だからです。でも、危険だからといって黙っているわけにもいかないし、何もしないわけにもいきません。仕事も余暇もバッチリ充実の彼女は、ロックダウン中も、ここぞとばかり、ずっとやってみたかった新しい言語、新しい楽器、新しい料理に挑戦。今まで読みたかったけれど読めなかった本も読み漁りました。今回はそんな彼女がお気に入りの6冊を紹介してくれます。それぞれが独特のスタイルを持っており、「中絶」が今までにはない視点から見つめられたり、中絶を描写する時にあまり聞いたことのない言葉で語られています。あなたも読んでみて、ぜひ感想を聞かせてください。
まずは、英語の本3冊です。
The Handmaid’s Tale, Margaret Wood
(日本語版は、マーガレット=アトウッド著
『侍女の物語』結婚して初めて分かったこと)
フィクション好きならマーガレット=アトウッドの名前を聞いたことがあるかもしれません。女が決められた役割を押し付けられる地獄の世界ディストピア(ユートピアの反対)が近代技術と結びついた時、私たちの住む世界はどんな風になってしまうのか…?著者は小気味のいい語り口であなたをその不気味な世界いへと連れて行ってくれます…
米国、英国、ブラジルなど、「民主主義」と呼ばれる社会が一体どこに向かっているのか、心配している人に面白い本かもしれません。また、道徳的フェミニスト(Moralist feminists)と保守宗教の力が結びついたらとんでもないことが起こるに違いないと予想しているあなたに最適な本です。
The Turnaway Study: Ten Years, a Thousand Women, and the Consequences of Having―or Being Denied―an Abortion, Diana Greene Foster
(日本語版なし)
中絶という経験を正確に理解するには、実際に中絶を経験した人の話を聞くのが一番です。逆にいうと、中絶に反対する人は、中絶を経験した人の体験談、つまり「当事者の事実」を知ろうとしません。この本には、中絶をした女性の中絶後10年間の人生、中絶を受けたいのに受けられなかった女性のその後の10年間の人生の話が収録されています。米国20州の1000人の女性の人生の話が聞き取られています。
中絶が女性の人生に及ぼす影響は決して小さいものではない、中絶という経験をした後、女性の人生は何らかの形で大きく変わるということがよく分かります。人生を変える出来事という意味では、子産みも同じです。また、母性が強制されることがいかにジェンダー不平等を生み出すことかということも、実際の体験談を通して、はっきりと伝わってきます。
Living in the Crosshairs: The Untold Stories of Anti-Abortion Terrorism, David S. Cohen and Krysten Connon
(日本語版なし)
アメリカ合衆国で中絶を支援するということは、命を危険にさらすことです。武器が合法であり、保守キリスト教が自分たちの信条を守るためテロリズム行為にも出るような社会。この本には、そのような状況で中絶手術を提供する医師たちの体験談が収録されています。
中絶を施す医療従事者への複合的な嫌がらせ、暴力の構造をもっと深く理解したいあなたに興味深い一冊です。この本からは、安全な中絶提供を可能にするために中絶合法化・法的整備だけでは不十分である、ということがはっきりと伝わってきます。
次にフランス語の本。
L’Avortement : Histoire d’un débat (Abortion: the History of a Debate), Henry Berger, Bernard Pingaud
(日本語版なし)
Old but Gold – 古いけどいつまでも燦然と輝いている一冊。1975年に出版されたこの本には西欧における中絶の歴史が綴られています。ローマ帝国における中絶合法化から始まり、今日の中絶論争に至るまでの系譜がわかりやすく整理されています。中絶をめぐる政治論争が、実は、中絶以外の政治的利害に大きく影響されている、この構造を知りたい人は是非読んでみてください。
Simone Veil: Une vie (A Life, Simone Veil), Simone Veil
日本語版は
『シモーヌ・ヴェーユ回想録』
シモーヌ・ヴェーユ著/石田久仁子訳 パド・ウィメンズ・オフィス 2011年7月。
フランスの中絶法はヴェーユ法として知られています。偉大な人道主義者であるヴェーユの人生をコンパクトにまとめたこの偉人伝では、中絶は、党派・政治的見解を超えた、「基本的人権」であることがわかりやすく論じられています。彼女は、1974年から1979年まで、フランスの「厚生大臣」を務め、すべての女性が安全な中絶を受けることができるよう活動をしました。当時のフランスも男社会であったため、ヴェーユにとってそのような活動は容易ではなかったと思います。困難な中、ヴェーユが女性のためにどのように道を切り開いたか、これは、今日の私たちにも大きな示唆を与えてくれると思います。
ボーナス このリンクをクリックすると、フランスで中絶が合法化された時のヴェーユのフランス国会でのスピーチを聴くことができます。
最後にスペイン語。
Libertad Para Belén-Deza Soledad (Freedom to Belen)
(日本語版なし)
アルゼンチン人の若い女性ベレンは、流産をし、病院に行きますが、あれよあれよと牢獄に繋がれることになってしまいます。でもベレンは泣き寝入りをしない。こんな不正義を許せるか!と社会への反撃を始めます。この本は戦う女性ベレンの人生の話です。ラテンアメリカの多くの国では中絶そのものが犯罪であるか、アクセスが非常に限られています。特に貧困層の女性は「堕胎罪」の一番の犠牲者です。ベレンの人生は、私たちに、中絶を犯罪とすることは、貧困を犯罪とすることと同じであることを教えてくれます。
健康、法律、自分の体のことを自分で決められないことがどのように絡まっているのかを知りたい人にオススメの本です。ラテンアメリカで女性運動がどのように形成されていったかを知りたい人もどうぞ読んでみてください。
この記事の出典)https://www.womenonweb.org/en/page/20408/abortion-book-club-5-books-to-read-on-abortion by Leticia